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岐阜地方裁判所 平成9年(ワ)89号 判決

呼称

原告

氏名又は名称

遠松利幸

住所又は居所

岐阜県岐阜市南鵜四丁目一二三番地

代理人弁護士

栗山知

呼称

被告

氏名又は名称

株式会社マックランド

住所又は居所

愛知県名古屋市中区栄二丁目五番一号

代理人弁護士

鈴木含美

代理人弁護士

串田正克

主文

一  被告は、原告に対し、五五万七五〇〇円、並びに、内金四五万三五〇〇円に対する平成八年七月二二日から、内金一〇万四〇〇〇円に対する平成一〇年七月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、五八三万七五〇〇円及びこれに対する平成八年七月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告は、別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」という。)を所有している。

被告は、センサー測定器、情報制御機器、医療用機器等の電子応用機器の開発・製造販売等を目的とする株式会社である。

2  原告と被告は、平成五年一月二二日、本件特許権に関し、左記の内容の実施契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(一) 原告は、被告に対し、本件特許権により商品を製造.販売する専用実施権を許諾する(本件実施契約書二条)。

(二) 本件特許権により製造した商品を「本装置」という(同一条二項)。

(三) 被告は、原告に対し、本件契約に基づく対価として、契約金及び実施料を支払う(同六条)。

(四) 実施料は、一か月を期間とした実施状況に基づいて、その期間中における「本装置」の総販売仕切価格の一〇パーセントに相当する金額を、期間経過後三〇日以内に支払う(同八条)。

(五) 本件契約の有効期間は契約締結日から三年とする。但し、契約期間満了の二か月前までに、原・被告いずれか一方から何らかの申出のない時は、さらに三年間契約を延長するものとする(同一一条)。

(六) 本件契約が終了した時において、被告が既に全部または一部を実施した「本装置」を有する時には、その数量を原告に報告することとし、その報告した分に限り被告は自由に販売することができる(同一三条一項)。

(七) 前項により被告が販売する「本装置」については、被告は原告に対し、被告が前項により報告した「本装置」の数量による総販売仕切価格の一〇パーセントに相当する金額を対価として契約終了日から起算し、半年以内に支払うものとする(同一三条二項)。

3  被告は「本装置」として、「B―SHOWER」という名称の商品(以下「本件商品」という。)を製造・販売した。

4  被告は、平成七年一二月二一日から平成八年一月二〇日までの本件商品の海外輸出分六〇台につき、合計販売仕切価格を六〇万円とし、原告に対し、実施料としてその一〇パーセントにあたる六万円の支払をした。これは、一台当たり一〇〇〇円の実地料となる。

また、被告は、平成八年一月二二日から同年二月二〇日までの本件商品の海外輸出分五台につき、合計販売仕切価格を六万五〇〇〇円とし、原告に対し、実施料としてその一〇パーセントにあたる六五〇〇円の支払いをした。これは、一台あたり一三〇〇円の実施料となる。

これらの海外輸出分の実施料として支払われた金額は合計六万六五〇〇円となる。

5  原告は被告に対し、平成七年一一月七日付けの書面で、本件契約を期間満了とともに終了させ、更新しない旨の通知をし、平成八年一月二二日、本件契約は終了した。

6  被告は、本件契約終了時点において本件商品を六七三台保有していた。

7  原告は、本件商品の実施料は最低でも一台あたり八〇〇〇円であるとして、本件契約に基づき、海外輸出分の実施料の未払分(四五万三五〇〇円)及び本件契約終了時に被告が保有していた在庫品の実施料(五三八万四〇〇〇円)の合計五八三万七五〇〇円及びこれに対する本件契約終了時から六か月経過した平成八年七月二二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めて本件訴訟を提起した。

二  争点

1  海外輸出分の実施料の算定方法について

2  本件契約終了時に被告が有していた在庫品の実施料の支払義務の存否

三  争点に関する原告の主張

1  海外輸出分の実施料について

平成五年一月二二日頃、本件契約締結に際し、被告代表者から、本件商品の販売仕切価格は定価の五〇パーセントにすることになったので、実施料はその一〇パーセントを支払うとの申し入れがあり、原告もこれを了承した。

このように、本件契約当初より、実施料は変動するものではなく、一定額のものとして合意された。

平成五年一一月の販売直前に、被告から原告に対し、定価が二四万五〇〇〇円に決定されたので、本件商品一台の販売仕切価格は一二万二五〇〇円であり、実施料としてはその一〇パーセントの一万二二五〇円を支払うとの申入れがあった。

しかし、販売直後、被告は、一方的に販売仕切価格を定価の四〇パーセントに変更するとの通告をし、原告もやむを得ず、この申し出を受け、実施科はその一〇パーセントの一台当たり九八〇〇円に変更することに合意した。

そして更に、平成六年五月頃、被告は実施料を一台当たり六〇〇〇円に引き下げてきたので、原告はそれに抗議をし、同年八月頃、話し合いの結果、同年七月分からは、代理店に卸す場合(以下「代理店分」という。)は実施料一台当たり八〇〇〇円、一般ユーザーに対して販売する場合(以下「一般分」という。)は実施料一台当たり一万一〇二五円とする旨再度合意をしたものである。

そして以後本件契約が終了するまで、被告は原告に対し、被告の実際の卸価額とは無関係に、これらの一定額の実施科を支払ってきた。

このように、原・被告間で実施料は代理店分一台当たり八〇〇〇円、一般分一台当たり一万一〇二五円と合意されたものであり、海外分として安くするという合意がなされたことはない。

よって、海外輸出分も最低一台当たり八〇〇〇円の実施料が支払われるべきである。

2  在庫品の実施料について

本件実施契約書一三条は、一項で被告が契約終了時の在庫数を報告する義務と報告した在庫を販売する権利を認め、二項で報告した数量に対応する実施料を「半年以内に」支払う義務を課している。

このように半年という期間を限定していること、「販売された『本装置』」という過去形ではなく、「販売する『本装置』」とこれから被告が販売する(ことができる)という言葉で規定されていることから、右条項は、半年以内に被告が販売したか否かを問わず在庫品の実施料を支払うという意味であることは明白である。

また、特許権の実施の意義から言っても、本件商品を製造すること自体が本件特許権の実施であり、被告が本件商品を製造し在庫として保有していることのみからも被告は実施料を支払うべき立場にある。

そして、本件実施契約書一三条の「総販売仕切価格の一〇パーセント」という文言は同八条の文言と同一であり、八条の実施料が前述のように一定額に定められている以上、一三条の金額も同様に解するのが公平であり、本件商品の実施料としては最低八〇〇〇円の合意があるので、一台当たり八〇〇〇円の実施料を支払うべきである。

四  争点に関する被告の主張

1  海外輸出分の実施料について

本件実施契約書には、実施料は「本装置の総販売仕切価格の一〇パーセントに相当する金額」と定められているにすぎず、総販売仕切価格ないしは実施料の最低額を取り決めた規定はない。

そして、総販売仕切価格は、その性質上当然に変動するものであるから、被告が原告に支払うべき実施料も被告の販売価格に応じて変動するものである。

たしかに、原告の要求によりやむなく、被告が国内で販売した分について、代理店分については実施料一台当たり八〇〇〇円、一般分については一台当たり一万一〇二五円という金額を基礎とした金額を支払ったことはある。

しかしながら、原告との間で、被告がいかに低価格で販売しても最低実施料として一台当たり八〇〇〇円を支払うというような合意をした事実は全くないし、被告がそのような合意をする必要もない。もし仮にそのような合意が成立したのであれば、それは当初の契約内容から大きく変化するものであるから書面等に残されているはずであるが、そのような書面もない。

したがって、販売仕切価格一万円に対し八〇〇〇円の実施料を支払えという原告の請求は全く理由がない。

2  在庫品の実施料について

(一) 本件契約書の一三条の規定の文言からすると、契約終了時に有していた在庫数量の全数に対し販売(予定)の有無にかかわらず無条件に実施料を支払うとはされておらず、販売することは被告の義務ではない。

この規定の趣旨は、通常であれば実施契約の終了により実施権は消滅するのが原則であるが、契約終了時における在庫品に限り実施権を存続させることとし、契約終了後であっても実際に販売された分については契約存続中と同様に実施料を支払うことにするということにある。

したがって、被告は販売していない在庫品の実施料を支払う義務はない。

(二) また、そもそもこの条項は、契約終了時にわずかな数の在庫が残った場合には、引き続き販売することも可能であるとしたものであり、数か月のうちに全部の在庫を売り切ることを前提として規定されたものである。このため、実施料の支払期限は半年以内とし、実施料の計算方法は総販売仕切価格の一〇パーセントとして実際の卸価格の一〇パーセントと規定したものである。

したがって、右条項は本件のように大量の在庫が残り、販売できない在庫品が大量に出る場合を想定せず何も定めていない。

この場合、特許権を実施利用し利益を上げた場合にその上げた利益に応じて支払われるという実施料の性質上、販売していない以上実施料の支払は不要と解すべきである。

第三  当裁判所の判断

一  争点1(海外輸出分の実施料)について

1  前記争いのない事実、証拠(甲一ないし四、八ないし三〇(枝番を含む。)、三三ないし四八(枝番を含む。)、乙三、原告本人、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告は、平成五年一月二二日、原告との間で本件契約を締結し、本件商品を一〇〇〇台製造して、同年一一月一一日、発売を開始した。

本件商品の発売直後、原告は、被告代表者から、実施料について、代理店に対しては定価の半分で売るつもりであったが、定価の四〇パーセントで売ることになったという説明を受けた。原告は、被告から本件商品の定価は二四万五〇〇〇円とすることを聞いていたので、代理店分の実施料は販売仕切価格九万八〇〇〇円の一〇パーセントにあたる、一台当たり九八〇〇円になると理解した。

また、被告から一般向けには二一万円で販売するが実施料はその五パーセントの一万〇五〇〇円にするとの説明を受け、原告はそれを了承した。

(二) 本件実施契約書によれば、被告から本件商品につき一か月を単位とする販売台数・販売価格等の報告があるはずであったが、販売開始から一か月過ぎても何ら報告はなく、実施料の支払もなされなかった。

そこで、原告が被告に対して実施料の支払を再三催促したところ(甲三三、三四)、平成六年四月に、平成五年一一月から平成六年三月までの分(販売合計四六台)の実施料合計四五万一五五一円がまとめて支払われたが(甲三六の1、2)、その内訳が不明であったので被告に問い合わせると、一般ユーザーに対し特別割引で売ったということであった。

原告は、当初説明された一般分の実施料一台当たり一万〇五〇〇円より低額であったので納得がいかなかったが、今後販売が軌道に乗れば約束どおり支払ってもらえるものと思い抗議はしなかった。

(三) 平成六年四月分は一般ユーザに一三台売ったということで、被告から原告に対し、実施料一台当たり一万〇五〇〇円の計算で支払われたが(甲八)、同年五月分は一般分は一万〇五〇〇円で計算してあったものの、代理店分の実施料が一台六〇〇〇円で計算してあった(甲九)。

そこで、原告が被告に実際はいくらで販売したのかと問い合わせると、代理店へはすべて一〇万円以上で販売したということであったので、原告は被告に対し抗議をした。

さらに、被告から原告に対して同年六月分の計算書が送付されたが、一般分は一万〇五〇〇円で計算してあったものの、代理店分は一台当たり六〇〇〇円で計算してあった(甲三九、甲一〇)。

これに対し原告は、代理店分の販売仕切価格の設定が不適切である旨の抗議をし(甲三八、四〇、四一)、平成六年九月頃、原告と被告の間で、実施料について、同年七月分からは代理店分は一台当たり八〇〇〇円、一般分は一万一〇二五円とする旨の合意が成立した。そして、同年五、六月分の代理店分は一台当たり九八〇〇円として計算してその差額を清算することとなった。

被告は、右の合意に従い、原告に対し、平成六年七月分以降、代理店分は一台当たり八〇〇〇円、一般分は一台当たり一万一〇二五円の実施料を支払っていた(甲一二ないし二三、四四)。

そして、その後被告から実施料の基礎となる販売仕切価格が報告されることはなく、原告の方も実施料が固定額に決まった以上、販売仕切価格よりも販売数が重要であったので、販売仕切価格を問い合わせることもしなくなった。

(四) その後、被告は、本件商品の国内での売れ行きが良くなかったことから、台湾へ輸出することを考え、まず、台湾の会社が本件商品を取り扱ってくれるかどうかを決めるために、四台を一台当たり六万一二五〇円で出荷した。

そして、被告は原告に対し、海外へ出荷すると、税関手数料、入金手数料、運送費等の諸経費がかかるので、海外輸出二台分を一台として、すなわち、一台四〇〇〇円として実施料を計算するように申し入れた(甲四六)。

しかし、原告がそれでは安すぎると主張したため、被告は原告との間で、この台湾輸出分四台については実施料を一台当たり六〇〇〇円にすることを合意した(甲二四の2)。

その後、台湾の会社が本件商品を試験的に販売してみても良いと言ったため、被告は本件商品を六五台出荷することにした。

台湾の会社からは無償で送るようにと要求されたが、交渉の結果、有償サンプル出荷ということで一台当たり一万円ないし一万三〇〇〇円で輸出することになった。

(五) 平成七年一一月一一日、原告は被告に対し、内容証明郵便により専用実施権の終了を通告し、本件実施契約は、平成八年一月二二日をもって期間満了により終了した。

2  右事実によれば、平成六年九月頃、被告は原告との間で、平成六年七月分以降の実施料について、代理店分は一台当たり八〇〇〇円、一般分は一万一〇二五円という定額を支払う旨合意した事実が認められる。

そして、右合意は、被告が当初実施料の支払を遅滞したことや販売数・販売価格の報告もしなかったこと、被告が代理店への販売価格の一〇パーセント以下の実施料しか支払わなかったことや販売仕切価格の設定が不適切であったこと等から、原告が被告に抗議をして、被告が最低限の支払うべき実施料を取り決めたものということができる。

よって、被告は原告に対し、台湾の会社へ輸出した六五台についても、代理店分の実施料一台当たり八〇〇〇円を支払うべきである。

もっとも、右1(四)のとおり、原告は被告との間で、右合意の後、台湾への四台分について実施料を一台当たり六〇〇〇円とする旨の合意をしたが、これは前記認定のとおり、被告が二台分を一台として計算するように申入れたところ、原告がこれを承知しなかったため、六〇〇〇円となったものであって、この四台限りの合意であると認められる(甲四八によれば、被告も六〇〇〇円の合意はこの四台限りの合意であることを認めている。)。

そして、海外輸出分の実施料について、前記の合意を変更して原告が販売価格の一〇パーセントとすることに同意したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

3  よって、被告は、原告に対し、海外輸出分の実施料不足分として、六五台分の実施料合計五二万円から既払実施料額六万六五〇〇円を引いた四五万三五〇〇円及び弁済期経過後の平成八年七月二二日から支払済みまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

二  争点2(在庫品の実施料)について

1  本件契約終了時、被告が本件商品を六七三台保有していたこと、原・被告間において、本件契約終了時の在庫品については、「(1)契約が終了したときにおいて、被告が既に全部または一部を実施した「本装置」を有するときには、その数量を原告に報告することとし、その報告した分に限り被告は自由に販売することができる。(2)前項により被告が販売する「本装置」については、被告は原告に対し被告が前項により報告した「本装置」の数量による総販売仕切価格の一〇パーセントに相当する金額を対価として契約終了日から起算し、半年以内に支払うものとする。」(本件実施契約書一三条)という条項どおりの合意があったことは当事者間に争いがない。

そして、被告代表者の尋問の結果及び乙三号証によれば、被告においては在庫品について売れる見込みがなく、売るつもりもなかったが、原告からの要望もあって、本裁判係属中も新たに広告を出す等して販売を継続した結果、在庫数量六七三台のうち販売できたのは一三台であることが認められる。

2  原告は、右合意の解釈として、六か月以内に実施料を支払うこととされていること、「販売した」ではなく、「販売する」という文言になっていることを根拠に、販売したか否かを問わず、在庫品全数量についてその実施料を支払うべきであると主張する。

しかしながら、被告が契約終了時に有していた在庫数量の全部についてではなく、被告が「販売する」商品について実施料を支払うものとされていること、在庫品については販売権があることを理由に在庫全数量について実施料を支払うべきであるとすれば、被告に在庫全数量について販売する義務が生じてしまうし、右条項の「販売する」、「総販売仕切価格」という文言にそぐわないことから、原告の右解釈は相当でない。

また、原告は、製造することも実施であるから販売していなくとも製造した以上実施料を支払うべきである旨主張するが、本件契約は、製造した数量に基づいて実施料を支払うという合意ではなく、実際に販売した数量及び販売仕切価格に基づいて実施料を支払う建前であるから、在庫品についても同様に考えるべきであり、右合意においても「販売する」商品について実施料を支払うものとされていることから、製造しただけで販売せず、販売の予定もない本件商品について実施料を支払うべきだとはいえない。

よって、前記合意は、契約終了時に保有していた在庫品のうち、被告が販売予定のものについては実施料の支払義務があるというものであり、「半年以内」と期間を限定していることから、販売予定のものについては販売の有無を問わず半年以内に実施料を支払う旨の合意であると解するのが相当である。

3  この点、被告は原告に契約終了時に販売予定数量を報告していないこと(被告代表者)、在庫全数量について販売予定であったこと(甲四八)からすれば、在庫全数量について実施料を支払うべきではないかと解する余地もないではない。

しかしながら、被告には、在庫数量の報告義務があるだけで販売予定数量の報告義務は課されていないこと、本件契約締結時には当事者双方とも在庫品が大量に残ることを予想していなかったと考えられることからすれば、在庫数量が販売予定数量と一致する場合、すなわち半年以内に売り切る程度の数量しか残らないことを念頭において前記合意をしたものと解されること、また、本件契約終了後も被告は原告の要望に従って在庫全数量を原価割れしてでも販売するつもりで努力をしていたものであるところ(甲四八、被告代表者、原告本人)、被告が販売の予定はないとして販売を打ち切った場合は実施料は支払わなくてもよいのに、右のように原告の要望に従って販売を続けていた場合には在庫全数量について実施料を支払う義務が生ずるとするのは不合理であること等の事情に照らすと、本件においては、実施契約終了後の被告の在庫品の販売権及び半年以内の実施料の支払義務に関する前記合意は在庫全数量については適用されないものであり、被告が実際に販売した数量についてのみ実施契約を継続した場合と同様に考え、実施料の支払義務があると解するのが相当である。

4  そして、原・被告間には前記認定のとおり最低実施料の合意があったことが認められるから、前記認定の販売台数一三台については、少なくとも代理店分の最低実施料一台当たり八〇〇〇円を支払うべきである。

したがって、被告は原告に対し、一三台分の実施料として一〇万四〇〇〇円を支払う義務がある。

遅延損害金については、前記のとおり本裁判係属中も販売を継続した結果一三台販売できたのであるから、本件口頭弁論終結の日の翌日から支払えば足りるというべきである。

三  以上によれば、原告の本訴請求は五五万七五〇〇円及び内金四五万三五〇〇円については平成八年七月二二日から、内金一〇万四〇〇〇円については平成一〇年七月三日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判長裁判官 菅英昇 裁判官 倉澤千巌 裁判官 村上未来子)

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